なぜ、フレンチ・ブルドッグは、こんなにも不器用で、愛おしいのか? —愛犬が教えてくれた、デザインの本質—
完璧ではない、ということの価値。
私の最愛の家族である一匹のフレンチ・ブルドッグがいます。 彼の名前は、『ぷりん』。愛嬌のある潰れた鼻、コウモリのような大きな耳、そして、いつも何かに不満げな、味わい深い眉間のシワがチャームポイントです。
世の中には、もっと賢く、もっと身体能力の高い犬種は、たくさんいるでしょう。 事実、彼は、お世辞にも器用とは言えません。夏の暑さにも、冬の寒さにも弱い。自分のいびきで、驚いて飛び起きる。全力で走れば、すぐに「フガフガ」と息が上がってしまう。
しかし、私たちは、なぜ、これほどまでに、この「完璧ではない」生き物に心を奪われてしまうのでしょうか。
最近、私は、その理由が、私たちが日々追求している 「良いデザイン」の本質 と、深く繋がっていることに気づきました。
「弱さ」が、最高のコミュニケーションを生む。
彼の不器用さは、決して欠点ではありません。 むしろ、それこそが、彼と私たちの間に、他に代えがたい、深いコミュニケーションを生み出す源泉となっています。
暑さに弱いから、私たちは、彼のために一番涼しい場所を探してあげる。 ボールをうまくキャッチできないから、私たちは、彼が受け取りやすいように、一番優しい投げ方を考える。 少し頑固なところがあるから、私たちは、「どうすれば、彼の心に響くだろう?」と、言葉を尽くし、工夫を凝らす。
そうです。彼の「不完全さ」が、私たちの想像力と思いやる気を引き出し、一方通行ではない、豊かな対話を育んでいるのです。
これは、私たちの仕事と、全く同じではないでしょうか。
クライアントが抱える課題や、言語化できない「想い」。その一見「不完全」に見える部分にこそ、私たちが向き合うべき、最も大切なものが隠されています。私たちは、その不完全さに深く寄り添い、どうすればその価値を最大限に引き出せるかを考え抜き、最高の「形」をデザインする。
完璧な製品を、ただ右から左へ流すだけの仕事に、本当の喜びはありません。不完全なものと向き合い、対話し、共に悩み、より良い未来を創造していくプロセスにこそ、私たちの仕事の、そして人生の醍醐味があるのだと、彼はその不器用な身体で、私に教えてくれているのです。
デザインとは、愛おしさの発見である。
もう一つ、彼が教えてくれた、大切なこと。 それは、「愛おしさ」は、細部に宿る、ということです。
ソファーで眠っている時の、小さな寝息。 散歩中に、ふとこちらを見上げる、信頼に満ちた眼差し。 帰宅した私を迎える、全身全霊の喜びの表現。
彼の魅力は、決して「フレンチ・ブルドッグ」という記号的なスペックにあるのではありません。日々の暮らしの中に散りばめられた、 名もなき、しかし、かけがえのない無数の「細部」 にこそ、彼のどうしようもない「愛おしさ」は宿っています。
良いウェブサイトのデザインも、全く同じです。 事業の魂は、大きなキャッチコピーだけに宿るのではありません。ボタンを押した時の、心地よい感触。読みやすいように、とことん調整された文字の間隔。ページを読み進めるのが楽しくなるような、滑らかなアニメーション。その、誰も気づかないかもしれないほどの、誠実な「細部」へのこだわりの積み重ねが、ウェブサイト全体に、温かい「体温」と、揺るぎない「信頼感」を生み出します。
だから私たちは、今日もクライアントのビジネスの中に眠る、その不器用で、人間くさくて、どうしようもなく 「愛おしい細部」 を探す旅に出るのです。
なぜなら、その細部にこそ、魂は宿るのだと、私の最愛の家族である彼が、教えてくれたのですから。