私たちは、お客様の「想い」を、どうやって聴き取っているのか?
私たちの最初の仕事は、「納品」ではなく「質問」です。
「想いを、デザインに翻訳します」 私たちは、いつもそうお伝えしています。しかし、その「翻訳」のプロセスは、一体どのように行われるのでしょうか?
それは、決して、私たちが会議室でPCを広げ、美しいデザイン案をお見せすることから始まるのではありません。 私たちの最初の仕事は、あなたに、たくさんの、そして、少し変わった質問をすることから始まります。
今日は、その対話の一部を、架空のクライアントである「こだわりのパン屋さん」を例に、少しだけ再現してみたいと思います。
あるパン屋さんの、最初の対話
Disilog: 「こんにちは。今日は、あなたのパンの話ではなく、あなたの『物語』を聞かせてください。そもそも、なぜ、パン屋さんになろうと思ったのですか?」
店主: 「え?…そうですね、子供の頃、母が焼いてくれたパンの香りが、家中に広がる瞬間が、何よりの幸せだったからです。あの温かい記憶を、誰かに届けたくて…」
Disilog: 「素晴らしいですね。『温かい記憶』。では、お店に立っているとき、どんなお客様の顔を思い浮かべますか?」
店主: 「仕事帰りの、疲れた顔のOLさんですね。うちのクリームパンを一つ買って、少しだけホッとした顔で帰っていく。あの一瞬を見ると、ああ、明日も頑張ってパンを焼こう、って思えるんです」
Disilog: 「なるほど。では、パン作りで、絶対に譲れない『一手間』はありますか?誰にも気づかれないかもしれないけど、これだけは、というような」
店主: 「それは、レーズンパンの、レーズンですね。うちは、市販のものではなく、一晩、自家製のシロップに漬け込んでから使っているんです。その方が、焼き上がりがふっくらして、香りが全然違う。誰も気づかない、完全な自己満足ですけどね(笑)」
「想い」は、そこにありました。
もう、お分かりでしょうか。 わずか数分の対話で、私たちは、このパン屋さんの「想い」の原石を、3つも見つけることができました。
- 原体験: 幸せだった子供時代の「温かい記憶」
- 届けたい相手: 仕事で疲れた女性の「ホッとする一瞬」
- 譲れないこだわり: 誰にも気づかれない「レーズンへの一手間」
もし、このパン屋さんのウェブサイトを作るなら、私たちは、ただパンの写真を並べることは絶対にしません。
サイトのメインコピーは、「母の温かい記憶が、この店の原点です」になるかもしれません。 写真のトーンは、仕事帰りの女性が見て、心からホッとするような、温かい夕暮れの色調になるでしょう。 そして、レーズンパンの紹介ページには、「この一粒に、私たちの誇りが詰まっています」という、力強い一文が添えられるはずです。
これが、私たちの仕事です。 あなたの物語を、私たちに聞かせてください。そこから、すべてを始めましょう。